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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)158号 判決

原告

山田ね子

右訴訟代理人弁護士

冨田武生

仲松正人

被告

公害等調整委員会

右代表者委員長

西山俊彦

右指定代理人

飯村敏明

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が公調委平成二年(フ)第三号、平成三年(フ)第一号開発行為許可処分取消裁定申請事件につき、平成四年六月二二日にした裁定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  申請人の地位及び裁定に至る経過

(一) 岐阜県知事は、平成二年七月二四日、都市計画法附則四項に基づき、岐阜県可児郡御嵩町大久後字赤場根七九八五番一ほか四二筆の土地についてゴルフ場の開発を目的とする訴外東海レイヨン株式会社(以下「訴外会社」という。)の開発行為許可申請を許可する処分(岐阜県指令建第一一四号の八。以下「本件許可処分」という。)を行った。

(二) 原告は、別紙図面1の②の土地について、けい石、長石を目的鉱物とする採掘権(岐阜県採掘権登録一三一九号。以下「本件採掘権」という。)を有している(以下、本件採掘権の対象となる区域を「本件鉱区」という。)。

(三) 原告は、昭和五一年一二月一七日、名古屋通商産業局長(現中部通商産業局長)に対し、別紙図面1の③の範囲の土地につき、耐火粘土を目的鉱物とする採掘権設定の出願をした(五一名通出採第六九号。以下、この出願を「本件採掘権出願」という。)。

(四) 本件許可処分の対象区域(以下「本件開発区域」という。)と本件鉱区及び本件採掘権出願の区域とは、別紙図面1のとおり重複している。本件開発区域と本件鉱区が重複する部分(以下「本件重複部分」という。)の面積は約二万坪であり、本件開発区域と本件採掘権出願の区域との重複部分の面積は約一〇万坪である。

(五) そこで、原告は、都市計画法附則第五項により準用される同法五一条一項の規定に基づき、本件許可処分の取消しを被告に申請したところ(公調委平成二年(フ)第三号開発行為許可処分取消裁定事件)、訴外会社が参加の上(公調委平成三年(フ)第一号事件)審理が行われ、被告は、平成四年六月二二日、原告の申請を棄却する旨の裁定(以下「本件裁定」という。)をした。

2  法令違反

本件裁定には、以下のとおりの法令違反があるから、取り消されるべきである。

(一) 原処分庁である岐阜県知事は、本件許可処分をするに当たり、本件採掘権と本件開発行為の公益性の比較衡量に必要な資料の提出を原告に求めたり、自ら調査をすることをせず、さらにその検討及び判断を行わなかった。右は、本件許可処分の手続上の違法であり、被告は裁定で本件許可処分を取り消すべきであった。このことは、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(以下「土地利用調整手続法」という。)四四条二項が、申請に基づいてした処分が手続の違法を理由として裁定で取り消されることを前提とする規定をおいていること、そして、右裁定による取消しから同法一条一項二号ヌ(都市計画法五一条一項の場合)を除外していないことから明らかである。

ところが、本件裁定は、都市計画法五一条一項に基づく裁定の申請については、原処分庁の調整判断を更に必要とするような特段の事情のない限り、手続の違法を理由として原処分を取り消すことは制度上予定されていないとして、直ちに自ら調整の判断に入り、原告の申請を退けた。このような原処分の手続の違法を不問とした本件裁定は、土地利用調整手続法一条、四四条二項に反するものである。

(二) 原処分の取消しを求める者は、直ちに抗告訴訟を提起することができず、先ず被告の裁定を求めなければならないから、行政審判制度は審査請求前置主義と変わるところはない。審査請求前置主義は、違法な行政処分に対し行政庁内部において適正迅速な匡正が行われるならば、司法はその止むをえない場合に救済の機能を営ましむるのを適当としたので採用されたものである。そうだとすれば、行政審判手続においては、通常の不服申立よりも一層、あらゆる事項を検討して原処分の違法性を判断することが求められているといわなければならない。さらに、抗告訴訟の場合と比較すると、本件裁定は第一審に相当するものであり、通常の抗告訴訟においては当然原処分の手続の違法の主張は可能であるから、本件裁定においては、本件許可処分を手続の違法を理由として取り消すべきであったといえる。そうでないと原告の審級上の利益を奪う結果となる。

したがって、本件許可処分の手続違法を理由にこれを取り消さなかった本件裁定は、土地利用調整手続法四四条二項の解釈適用を誤った違法があるのみならず、ひいては憲法一四条、三二条に違反する。

(三) 都市計画法三三条一項一四号は、開発許可の基準として、開発行為に関する工事の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを掲げているが、本件許可処分は、合理的根拠なく、原告の鉱業権が右「妨げる権利」に該当しないとした違法がある。本件裁定は、右規定が不服裁定制度の目的である鉱業等に係る土地利用の調整を図るための規定ではないとして、原告の原処分の違法の主張を退けたが、本件裁定のこの不合理な判断は、土地利用調整手続法一条に違反する。

(四) およそすべての行政手続は、適正手続に則って行わなければならないことは憲法三一条、一三条の求めるところである。被告の裁定手続及び判断は、それが準司法的なものであるということからしても、適正で合理的であることは当然要請されている。土地利用調整手続法一条の目的には当然にこのことが予定されていると解すべきであるから、被告が不合理な判断を行った場合には、同法一条違反となる。これを本件についてみるに、

(1) 土地利用調整手続法一条は、鉱業権の持つ重大な公益性を重視して他の産業との調整を図るために特別な制度を設けたのであるから、未だ出願中との理由だけで全く公益性の考慮の対象としないのではなく、採掘権の重大性を積極的に受け止めて審理すべきことを予定しているというべきである。ところが、本件裁定は、耐火粘土の採掘権の設定出願をしただけでは、本件裁定申請をすることができる利益を有していないとの理由で、右公共の福祉の観点での判断から排除している。これは都市計画法五一条一項の解釈を誤っている。

(2) 本件裁定は、原告の鉱業権が将来事業化できる可能性が非常に低いことを前記公益性の比較衡量の重要な柱としているが、公益性の観点からいって重要なことは鉱物資源の確保であり、個人的な事情は重視すべきものではない。

(五) 本件裁定は、実質的には第一審の裁判に該当するのであるから、その審理及び判断に重大な手続上の違法があれば、それが具体的な法令の条項に違反していなくても、裁判所は取り消すことができる。そして本件裁定には、次のような裁定に重大な影響を及ぼす手続上の違法がある。

(1) 判断遺脱、理由不備

本件ゴルフ場が営利事業であり、付近に多数のゴルフ場が他に存在することは、公益性の比較にあたってゴルフ事業にマイナスになるとの原告の主張に対し、本件裁定は全く判断していない。

(2) 審理不尽

被告は、その専門性と独立・公益性の故に、土地利用調整手続法三三条の規定も活用して、積極的に本件採掘権及び本件ゴルフ場の公益性(ゴルフ場の非公益性も含む。)の調査・判断を行うべきであり、仮に被告にはそれが困難というのであれば、本件許可処分の手続違法を取り消して、処分庁に改めて調査及び判断を行わせるべきであった。すなわち、本件裁定は、特段の事情がある場合には、手続違法を理由に処分を取り消すことができるというが、その「特段の事情」につき、審理不尽の違法があったといわざるを得ない。

3  実質証拠の欠如

本件裁定には、以下のとおり、その基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない。

(一) 本件裁定は、本件ゴルフ場が国民のレクリエーションと健康の維持増進に寄与し、地域住民から期待され、十分協議をし、民主手続を経た上で事業者とも合意がなされているということを重要な判断の基礎としているが、右事実を基礎付ける実質的な証拠はない。

(二) 本件裁定は、原告の主張するゴルフ場による被害については「そのような具体的な事実を認めるに足り」ないとしているが、逆にいえば被害がないことが証明されてはいないのであって、本件ゴルフ場についてはその被害はあり得ないとする実質的証拠を欠いている。

(三) 本件裁定は、本件重複部分に鉱業の稼業が経済的に成り立つような鉱床が存在するとは認められないと判断し、その根拠として参考人朽名重治の審問の結果を引用する。しかし、鉱物の存在は鉱業権が認められていることによって強く推定されているのであるから、参考人朽名の供述はその推定を覆すには至っていないというべきであり、鉱床の不存在について実質的な証拠を欠いている。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因の1(一)ないし(三)は認める。

(二)  同1(四)のうち、本件重複部分が約二万坪であることは否認し、本件開発区域と本件採掘権出願の区域との重複部分が約一〇万坪であることは知らない。

(三)  同1(五)は認める。

2  同2、3は争う。

三  被告の主張

1  法令違反に関する原告の主張について

(一) 土地利用調整手続法四四条二項は、原処分が手続の違法を理由として裁定で取り消される場合があり得ることを前提とした規定であるが、同項は、手続の違法があるすべての場合に裁定で原処分を取り消すべきことを定めた規定ではない。そして、不服裁定制度の対象となる原処分は、いわば事前手続的な一応の処分にすぎず、被告の行う土地利用調整の判断こそ、実質において政策形成的な、いわば最終処分の性質を有するものである。

したがって、被告は、裁定を行う場合には、土地利用調整に係る行政判断の本体である裁定自体の適法性・妥当性に留意すれば足り、これを離れて原処分固有の手続の違法だけを理由として原処分を取り消すことは、制度上予定されていないというべきである。この意味で、原処分に手続の違法があるときは原則として原処分を取り消さねばならないとの原告の解釈は誤りである。仮に原処分に手続上の瑕疵があると疑われるような場合であっても、原処分の手続上の瑕疵が問題となる事項について、どのような調査により当該事項に係る事実を確定して裁定の判断をするのが妥当か、という問題に帰することになり、この点は、被告の合理的な裁量に委ねられている。本件においては、原告が問題とする事項は、本件裁定の手続において当初から問題とされた土地利用調整の本体的事項であって、準司法手続により関係者の主張・立証を含め十分な審理が行われたのであるから、この点に関して法令違反は存在する余地がない。

なお、事案によっては、原処分の手続上の瑕疵に関連して、原処分を取り消した上で、処分庁に改めて調査・判断を行わせた方が調整のための調査・判断をより円滑に行うことができると考えられる場合もあるが、本件においては、このような事情はない。

(二) 不服裁定制度における裁定は、公益的な観点から行われる土地利用の調整のための政策形成的、かつ、最終処分的な性格を有するものであり、その意味において、各法律が国民個々人の権利利益が違法・不当な行政処分によって侵害された場合の救済を主眼とした処分の審査手続である行政不服審査法による審査請求の制度とは、基本的に趣旨が異なる制度である。次に、裁定が第一審の裁判に相当する性格をも有しているのは、実質において土地利用調整に関する政策形成的な最終処分性を有する裁定に対し、その手続の準司法手続としての適正さも考慮して、第一審の裁判に代置する効力を付与されたからにほかならない。

原告は、第一審の裁判手続という性格を持つ審判手続は、常にそれに先行する行政処分の適法性を審査する手続でなければならないとの前提に立って、原処分に手続の違法がある場合には被告は原則として裁定で原処分を取り消さなければならないと主張する。しかし、原告の主張は独自の見解に立つ主張であって理由がない。

(三) 都市計画法三三条一項一四号の規定の趣旨は、同項一二号、一三号の規定と並べて規定されていることからも明らかなとおり、後二者の規定と同様、開発行為の側からみた開発行為の完遂の確実性を確認し、行政として無益な開発許可を行わないようにしようとするものであって、当該地域を当該開発行為と鉱業等のいずれの利用に供するのが適当かという観点から土地利用の調整を図るための規定ではない。したがって、鉱業権が同法三三条一項一四号の「妨げる権利」に該当するか否かという点は、土地利用の調整に関する事項ではないから、本件裁定において判断すべき事項ではない。

(四)(1) 都市計画法五一条一項は、当該開発行為が現に行われることによって実現される公益と鉱業等とが現に営まれることによって実現される公益とを比較衡量して、土地利用の調整を図る趣旨であると解せられ、ここでいう「鉱業」とは、社会的にみて現実に事業の展開が行われうる実体を備えたものであることが必要である。鉱業出願人の地位は、未だ社会的にみて事業展開の可能性を有する実体を備えたものとはいえず、同条項による土地利用調整の判断にあたっては、考慮の対象にならないと解すべきである。

(2) 不服裁定における各事業の公益性の比較衡量に際しては、各事業の客観的な価値は重要であるが、本件においては、現に鉱業は営まれていないのであるから、調整判断を行うにあたっては、今後どのような事業展開が行われるのかを検討することが必要となる。そのような検討の中では、客観的に鉱業が成り立つかどうかという事情、仮に鉱業が実施されるとすれば、どのような事業形態によって事業が行われていくのかという事情が調整判断の前提として考慮されるのは当然である。本件裁定は、そのような観点から、今後の事業実施の見通しという原告の個人的事情についても判断したものであり、何ら不当ではない。

(五) 判断遺脱、理由不備及び審理不尽に関する原告の主張について

(1) 原告が判断遺脱、理由不備と主張する点については、本件裁定は原告の主張を排斥しており、この点について判断していないとの原告の主張は失当である。

(2) 原告が審理不尽と主張する点については、本件では、裁定手続において取り調べた各証拠から、調整の判断を合理的に行うことができたのであるから、本件許可処分を取り消して原処分庁に改めて調査・判断を行わせる必要性は全くなかった。したがって本件裁定が本件許可処分を取り消すべき義務に違反したとの原告の主張も理由がない。

2  実質証拠の欠如に関する原告の主張について

(一) ゴルフ場が国民のレクリエーションと健康増進に寄与する面を有することは公知の事実である。また、原告が一3(一)で主張するその他の事実も、本件裁定が摘示する各証拠により合理的に裏付けられている。

(二) 本件において調整判断の対象となるのは、本件重複部分において原告の採掘権に係る鉱業が営まれることによって実現される公益と本件許可処分に係る訴外会社のゴルフ事業が営まれることによって実現される公益である。

本件において訴外会社のゴルフ事業は、地元において地元に利益であると認識され、また将来営業されることが確実であり、環境保全、災害防止についてもこれを行政として確保する体制がとられているのであるから、鉱業の側の公益性がないに等しいことと対比させてみた場合、具体的な環境汚染のおそれをうかがわせる証拠のない状況においては、訴外会社のゴルフ事業のもつ公益性が原告の鉱業のもつ公益性を上回るという判断をすることは合理的な態度である。したがって、被告が原告の主張する環境汚染についてそれ以上の審理を行わず、本件重複部分においてゴルフ事業の公益性を優先させる判断を行ったことに不当な点はない。

(三) ある土地に鉱業権が設定されているからといって、鉱区の一部の箇所に鉱業が事業として成り立つような鉱物が存在すると推定されるものではない。本件重複部分に鉱業の稼業が経済的に成り立つような鉱床が存在するとは認められないとした点は、参考人朽名の供述のみならず、本件裁定が摘示する各証拠によって合理的に裏付けられている。

理由

一請求原因1のうち、本件重複部分が約二万坪であること及び本件開発区域と本件採掘権出願の区域との重複部分が約一〇万坪であることを除くその余の事実は当事者間に争いがない。

本件裁定事件の〈書証番号略〉によれば、本件重複部分及び本件開発区域と本件採掘権出願区域との重複部分は、別紙図面1のとおりであることが認められる。

二法令違反の主張について

1  請求原因2(一)及び(二)について

原告は、原処分たる本件許可処分に手続上の違法がある以上、被告は裁定で本件許可処分を取り消すべきであったにもかかわらず、原処分庁の調整判断を更に必要とするような特段の事情のない限り、手続の違法を理由として原処分を取り消すことは、制度上予定されていないとして、自ら直ちに調整の判断に入り、原告の申請を退けた本件裁定は、土地利用調整手続法一条、四四条二項に違反するのみならず、原告の審級上の利益を奪う結果ともなり、ひいては憲法にも違反すると主張する。

そこで、以下この点について検討する。

都市計画法は、開発行為をしようとする者は、あらかじめ都道府県知事の許可を受けなければならない旨定め(二九条)、同条その他の規定に基づく処分等についての審査請求は、開発審査会(七八条)に対してするものとしている(五〇条一項)。

そして、同法三三条一項は、知事は開発許可の申請があった場合、当該申請に係る開発行為が同項各号に列挙する基準に適合しており、かつ、その申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならない旨定めている。同項は、自己の業務の用に供する第二種特定工作物の建設に当たるゴルフコースの開発の場合は、同項の三、五、九、一一、一四の各号に列挙する基準に適合することを求めている。右各号は、一四号を除いては、開発行為のための設計が一定の基準を充たしていることを要求するものであり、知事に開発行為と他の産業との調整を審査して判断することを求めている規定ではない。また、一四号は、「当該開発行為の施行又は当該開発行為に関する工事の実施の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていること」を基準としている。右は、開発行為の許可を受けた者は開発事業の遂行に必要な所有権、地上権、賃借権等の権限を取得しなければ実際問題として事業に着手できないため、許可申請の段階である程度の権限を取得できる見込みのない場合に開発許可を与えることは無意味であるから、許可申請に当たって土地所有者等の相当数の同意を得ていることを基準としたものと解される。したがって、同規定は、「妨げとなる権利を有する者」のうち人数的に相当の数の者が同意することを求めているのみであって、他の各号の場合と同様に、知事に開発行為と他の産業との実質的な調整を判断することを求めている規定ではない。

そうすると、知事が同法二九条の処分を行うには、開発行為と他の産業との調整に関する判断を入れる余地がないのであり、右の処分に不服がある者で、右各号に定める基準の適合、不適合を理由とする場合は、開発審査会に対して審査請求をすることとなる。

他方、同法二九条の処分に不服がある者でも、その不服の理由が鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するものであるときは、被告委員会に裁定の申請をすることができることとなっている(五一条一項)。そこで、被告の裁定においては、同法三三条一項各号の適合、不適合に関する知事の審査、判断について審理されるのではなく、鉱業等と開発行為との調整に関する事項が審理、判断されるのである。

原告は、原処分庁たる岐阜県知事が本件採掘権と本件開発行為の公共性の比較衡量のための調査及び判断を行わなかったと主張するが、前記の理由から、知事の処分において右のような事項は調査判断される余地はないのであって、右事項は原処分の違法の事由とはならない。したがって、原処分の違法を理由に被告が裁定でこれを取り消すべきであったとの原告の主張は、その前提を欠き、採用することができない。

よって、請求原因2(一)及び(二)の原告の主張は、いずれも理由がない。

2  同2(三)について

前記1のとおり、鉱業権が都市計画法三三条一項一四号の「妨げる権利」に該当するか否かということは、土地利用の調整に関する事項ではなく、本件裁定において判断すべき事項ではないから、原告の鉱業権が右「妨げる権利」に該当するか否かの判断をしないことは、本件裁定の手続を違法ならしめるものではない。本件裁定は、土地利用調整手続法一条に違反しない。

3  同2(四)について

(一)  都市計画法五一条一項は、同法二九条の開発行為の処分について不服がある者で、その不服の理由が鉱業等との調整に関するものであるときは、被告に裁定の申請ができることを規定しているが、右規定が、「鉱業権」又は「採石権」ということばを使わず、「鉱業、採石又は砂利採取業」と規定していることに照らすと、右規定は観念的な権利としての鉱業権と開発行為との調整を図るためのものではなく、当該開発行為が現に行われることによって、開発行為の許可を受けた者と、鉱業権等に基づいて現に事業を行っている者か、少なくとも社会的にみて現実に事業の展開を行いうる実体を備えた者との間で土地利用に関して調整を要する場合に、鉱業等を営む者からの申請を認め、双方の公益性の比較衡量を行って調整判断を行う趣旨のものであると解される。

そうだとすると、採掘権の設定出願をしたにすぎない者は、出願の内容を鉱業法の規定に従って審査することを求めることができる地位を有するにすぎず、鉱業権が設定されるまでは、鉱業権に基づいて事業に着手することはできないから、このような地位は、社会的にみて現実に事業の展開を行いうる実体を備えたものとはいえない。したがって、被告が右の地位を同法五一条一項による土地利用調整の判断に当たって考慮の対象にしなかったことに違法の点はない。

(二)  右(一)で述べたところによれば、被告において土地利用の調整判断を行うに際しては、開発行為の許可を受けた者の事業と鉱業とについて、具体的な事業の遂行及びその結果についての公益性を比較衡量すべきものであり、現実面を離れた抽象的な意味での鉱物資源の確保等の必要性や公益性をその判断対象とするものではない。原告が有する鉱業権について、今後どのような事業展開が行われるのかを、鉱床の状況や過去の事業実績等からみて客観的に考慮判断すべきことになるのである。そうだとすれば、本件裁定が原告の個人的事情を考慮し判断したことは相当であり、違法の点はないというべきである。

4  同2(五)について

(一)  原告は本件ゴルフ場が営利事業であり、付近に多数のゴルフ場が他に存在することは、公益性の比較にあたってゴルフ事業にマイナスになるとの原告の主張に対し、本件裁定は全く判断していないから、本件裁定には判断遺脱及び理由不備の違法がある旨主張するが、右公益性に関する原告の主張については、本件裁定は、裁定書の理由第6の3で判断を示しているから、原告の主張は失当である。

(二) 原告は、本件裁定は、手続違法を理由に本件許可処分を取り消すことができる特段の事情につき、審理不尽の違法があったと主張するが、前記二の1で説示のとおり、本件許可処分には本件裁定で取り消しうる手続の違法はなかったのであるから、原告の主張は、その前提を欠き、採用できない。

三実質証拠の欠如の主張について

被告が本件裁定の理由中で認定した事実は、右理由中に摘示された各証拠により肯認することができ、これを覆すに足る証拠は存在しないから、右認定事実を立証する実質的な証拠があるというべきである。

以下、原告の主張に則して判断を示すこととする。

1  請求原因3(一)について

ゴルフが我が国においてスポーツとして普及していること、その結果、ゴルフ場事業が、営利事業であるにせよ、国民のレクリエーションと健康の維持増進に寄与する面を有していることは公知の事実ということができる。

また、本件ゴルフ場が地元において地域の活性化、未利用土地の有効利用等の観点から、御嵩町行政当局や地域住民と訴外会社との間において長期間にわたる協議、検討を行い、環境問題や地区への貢献についても十分話し合った上で合意されたものであり、多数の地域住民から期待されているものである事実は、本件裁定事件の〈書証番号略〉並びに参考人鈴川眞人の審問の結果により認めることができる。

2  同3(二)について

本件ゴルフ場の公益性に関する証拠は、右1で摘示したとおりである。

原告は、本件ゴルフ場について、その被害がないとする実質的証拠を欠いている旨主張する。しかしながら、土地利用調整手続法五四条一号に定める「裁定の基礎となった事実」とは本件ゴルフ場の公益性であり、本件裁定は、本件ゴルフ場による周辺環境に対する具体的な環境汚染のおそれをうかがわせる証拠のない状況においては(〈書証番号略〉、はいずれも一般論にすぎない。)、本件ゴルフ事業のもつ公益性が肯認できるとしたものであり、右公益性の判断には実質的な証拠があるものということができる。

3  同3(三)について

本件裁定が本件重複部分に鉱業の稼業が経済的に成り立つような鉱床が存在するとは認められないとした点は、本件裁定事件の〈書証番号略〉及び参考人朽名の供述によってこれを肯認することができる。右認定に反する〈書証番号略〉は、作成者が不明であってその真正な成立自体が認められない上、分析の対象となったサンプルが本件重複部分で採取したものかどうかも明らかでないから採用することができず、また、原告本人の各審問の結果中の右認定に反する供述部分は、いずれも客観性に欠け、供述それ自体あいまいであるから採用することができない。

なお、原告は、鉱物の存在は鉱業権が認められていることによって強く推定されていると主張するが、ある土地に鉱業権が設定されているからといって、その比較的広範な鉱区の一部の箇所に鉱業が事業として成り立つような鉱物が存在することまでが推認されるものではないから、前掲証拠のみではその推認を覆すに足るものではないとの原告の主張は採用できない。

四よって、本件裁定には土地利用調整手続法五四条所定の取り消すべき事由がなく、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官櫻井文夫 裁判官渡邉等 裁判官柴田寛之)

別紙〈省略〉

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